日は完全に沈んだ。
真っ暗になったキャンプ場に、ポツポツと灯りが灯る。
数少ない外灯や、テントに一つはあるテントのランプに光が点ったのだ。
ランプといっても、ランプの形をした懐中電灯のようなもので、光源は電気である。
テントの天井に、ランプを吊るすフックもちゃんと付いていた。
そしてとりあえず子供達は、自分の懐中電灯を持参している。
まぁ暗くても、安全であることから、子供達は日が落ちても元気に活動していた。

水彌とみちるは懐中電灯を片手に、別の子供会の友人のテントに駆けて行った。
そこで話しながらトランプゲームに混ぜてもらったりした。
ランプの下で女子5人が、婆抜きをしている。
「カウンセラーどんな人だった?」
みちるが他の子供会の友人、菱(ヒシ)に訊く。
菱がみちるのカードを一枚抜く。
「皆いい人だよぉ〜。そういえば夜に怖い・・・ッ・・・話してくれるって言ってた!」
菱が引いたカードを見て一瞬、顔を顰めた。
他の四人が、菱の引いたカードを察して表情を歪ませた。
・・・何処にババがあるか分かると、変に緊張してしまうものだ。
「そんなにカッコイイの?」
菱はそう言いながら、隣にいる同じ子供会の橘(タチバナ)に、扇状に並ばせたカードを突き出した。
橘は並んだカードを指でなぞり、これと決めたカードを一枚抜き出した。
「見てみたい・・・ッッ・・・かも。」
抜いたカードの表を見て、橘の眉間に皺が寄った。
他の四人が、橘の引いたカードを察して表情を歪ませた。
「私達のカウンセラーにも男はいるけど、そこまでカッコよくなかったよ。」
橘はカードを心行くまでシャッフルして扇状に並べた。
それから次にカードを引く倖(ユキ)に、カードを差し出した。
倖はカードを睨みに睨み、結局は直感でカードを選んだ。
「見にいこ・・・ッッッ・・・うか。」
倖の口元が一瞬、痙攣した。
他の四人が、倖の引いたカードを察して表情を歪ませた。
「どうせ早く寝ないでしょ?」
倖はそう言いながら、カードを何度も何度もシャッフルした。
そして綺麗に扇状に並べて、水彌に突き出した。
水彌は適当にカードを抜いた。
「そうね、すぐには寝ないで・・・ッッッッ・・・しょうね。」
引いたカードを見て、水彌がため息をついた。
他の四人が、水彌の引いたカードを察して表情を歪ませた。
「一緒にカウンセラー見に行く?」
水彌はカードをきりにきって、扇状にしてみちるに差し出した。
みちるはカードに穴が開くほどカードを見つめ、覚悟して一枚抜いた。
「じゃーババヌキ終わったら行こうね。」
みちるが妙に上機嫌そうに笑んだ。
水彌だけが表情を歪ませ、そんな水彌を他の四人がチラチラ見ながらクスクス笑う。

結局ババは水彌の手元に離れること無く、水彌が負けてしまった。
水彌をからかいながら5人は、水彌達のテントへと歩いていった。
案外テント周辺は明るかった。
子供会ごとにテントが集結していて、それぞれのテントのランプの光が集落一帯を明るくしていた。
そして子供達はほとんどテントに出ていた。まだ寝る気は無いようだ。
・・・皆でキャンプをする機会なんてめったに無いから、寝るのが惜しいのだ。
テントの外で話をしたり、テントの中でトランプをしたりと、夜なのに元気だった。
夜のキャンプ場を散歩するコまでいて、全く寝る気配が無い。
ちなみにキャンプは一泊二日である。
明日になれば、帰らなければならない。
もっとキャンプがしたいのに時間が短いので、その間は楽しく過したい、というわけだ。
「ポーカーみっけ!」
みちるが橘の手を引きながら言った。
「へぇ、なかなかカッコイイね。」
橘が言った。
「まぁまぁじゃない?」
菱が本人の前なのにも関わらず、きっぱりと言った。
「美形だと思うよ?私のカウンセラーになって欲しかったぁ〜。」
倖が機嫌良さそうに言った。
「うふふ、いいでしょ〜v」
みちるがニヤニヤしながら、倖に自慢した。
「ねぇねぇポーカー、ケー番とメルアド教えて〜!」
「私も〜!!」
みちると倖が、ケータイ片手に言い迫る。
「いいけど・・・。」
「やったーvvv」
夜にもかかわらず、彼女達のテンションはハイだ。


そうそう、・・・キャンプの夜の定番と言えば、
「怖い話してあげるー!!」
怖い話だ。
カウンセラーのみっちぃが、懐中電灯で下から顔を照らしながら言った。
キャンプの夜には必ずと言ってもいいほど、カウンセラーが怖い話をする。
そうでなくとも、怖い話好きのコが、キャンプの夜には怖い話を持ちかけるものだ。
「ホントに怖いかなぁ?」
男子の一部が余裕の笑みを浮かべながら言った。
「怖いわよー!!夜トイレに行けなくなるんだからぁ〜。」
みっちぃはひたすら脅かす。
「怖い話聞きたいー!」
みちるがみっちぃに近寄った。
「私嫌ぁぁ・・・。」
結城が耳を塞いだ。
「えー聴こうよー!!」
沙羅が結城の腕を掴んで言った。
「なんなら榛の隣に行く?」
ニヤニヤしながら沙羅が言うが、それでも嫌!と結城は首を振った。
「話すよ〜!!皆集まってー!!」
みっちぃがそう言うと、みっちぃの周りに人垣ができた。
水彌達も怖い話を聞きに、みっちぃに近寄った。
子供達がある程度集まると、みっちぃは話し始めた。

ある夜、AさんとBさんとCさんが、ドライブへ行きました
Aさんが運転席、Bさんが助手席、Cさんが後ろの席に座っていました
そのうちCさんは眠くなり、横になって寝てしまいました
そのままCさんは、深い眠りにつきました
しかし急に車が酷く揺れ、Cさんは目を醒ましました
車が事故を起こしてしまったのです
慌ててCさんがAさんとBさんを見ると・・・二人は死んでいました
二人は事故の衝撃で、・・・首が落ちていました
Cさんは走って、近くの家に助けを求めに行きました
時刻は12時
Cさんは家のドアを叩きました
そこの家の住人が、ドアを開けました
Cさんは言いました
「この首を入れる袋をください。」
両手にそれぞれ持っているAさんとBさんの首を突き出しながら・・・

「いゃああああっっっ!!」
結城が耳を塞ぎながらぶるぶると震えた。
「それで、12時まで起きてる人のところに、Cさんは来るんだって〜。
 『この首を入れる袋をください』ってね・・・!」
「いやっ!いやぁぁっ!」
かなり結城は怖がり、隣に居る沙羅の腕にしがみ付いた。
「こ、怖い・・・。」
水彌も若干怖がっていた。
「そんなの来るわけ無いわよー!」
沙羅がきっぱり言った。
「じゃあ12時まで起きてる?」
水彌が苦笑しながらそう言うと、沙羅は小さく嫌、と呟いた。
「そんなわけないだろー。」
男子はへらへらとしている。
「ありえん。」
優斗がきっぱりと言った。
「なによー!じゃあ優斗の家にCさんが来たらどうするのぉ〜?」
驚かすような口調で、水彌は言った。
「袋をあげる。」
「あげるんかい!」
つまらない返答に、水彌は突っ込んだ。
「だって袋欲しがってるんじゃん。」
「袋が無かったらどうするの?」
「無いです、って言って引き取ってもらう。」
「本当に来たら、そんなこと言ってる場合じゃなくなるかもよ〜。」
「って来るわけ無いし。ってか首持ちながらノックなんてありえん。」
「・・・・・・。」
優斗はいつもと変わらず冷静沈着だった。
「も、もうそろそろ寝ようか・・・。」
みちるがそう言うと、女子達は一斉に歯磨きをしに行った。

それから女子は、速やかにテントに入って眠る準備をしていた。
「ねぇ、髪どうする?」
水彌が四人に訊いた。
水彌はポニーテールをしている。これが水彌の定番的ヘアスタイルだ。
「私はこのまま寝ちゃう。寝癖立ったら嫌だもん。」
倭が、自分の三つ編みの先っぽを掴んでそう言った。
「私もこのまま寝ちゃうかな〜。横になって寝れなくなるけど。」
みちるは髪を二つに分けて結っていた。
「あー・・・寝癖立ったらどうしよ・・・。」
沙羅が倭の発言に反応した。沙羅はショートで髪を結っていない。
「私も寝癖立っちゃうかも・・・一緒にがんばろう。」
結城は髪を肩に掛かるくらい伸ばしている。
「うん、頑張ろうね!」
何を頑張るのかは分からないのだが、沙羅と結城が同盟を組んでいた。
「よし、じゃあねよっか。」
そうみちるが言い、テントの天井にぶら下っているランプを消そうとした。
「消さないで!」と結城が嫌がった。
「結城だけ榛のテントに行って寝て来い!」とみちるが言うと、テントに笑いが広がった。
とりあえず一番遅くまで起きてた人が、ランプを消すことになった。
寝る配置も皆入り口付近は嫌がるので、ジャンケンで決めることになった。
「ジャンケンポン!!」
・・・・・・・・・・・・・・
「・・・私?」
負けたのは水彌だった。水彌は今日、何かと運が良くないようだ・・・。
それから勝った人順に寝る場所を決めた。
勿論最後に残ったのは入り口前だった。最初に負けた水彌が強制的に、そこで寝ることになった。
寝る場所は、奥から倭、結城、みちる、沙羅、水彌の順になった。
寝る場所も決まって後は寝るだけなのだが、女子達は怖いせいか、友達と一緒に寝る機会が少ないせいか、すぐに眠りにつけなかった。
「そういえば結城ー!ポーカーのケー番聞いちゃったー♪」
「わぁ、きいちゃったんだぁ〜。」
「結城も榛のアドレスききなよ。明日がチャンスだって!」
「ってかポーカーのアドレスきいたの?私にも教えて!」
「嫌よー!自分できけばー?」
女子達のひそひそ話が聴こえる。しかし水彌は参加しなかった。
水彌はひそひそ話が遠のいていくような気がした。
いつの間にか、水彌は深い眠りに落ちていた。

時刻は12時。
光が灯っているのは、外灯だけだ。
それでも今夜は満月で、それなりに明るい。
木々の枝が伸びていないところは、影ができるほどだ。
だが森林のように木が生い茂るところには、闇が渦巻いている。
寝苦しくない、涼しい夜。キャンプ場は暗くて静かだった。
寝るには絶好である。
それもあり、疲れもあり、役員達もぐっすり眠っていた。
テントで体を横にしている子供達も、心地よい眠りについていた。
そして水彌も、すっかり夢の中だった。
・・・が、誰かが水彌を現実へと誘う。
ぶわ、ぶわぶわ。
テントの入り口を叩く音。
無論テントは布製だから、叩けばぶわぶわと音をたてる。
その音に気がついたのは、入り口の前で寝ている水彌だけだった。
他の四人はぐっすり寝ており、その音には気づいていなかった。
「ん・・・。」
水彌は体を起こし、目を擦った。
辺りを見回すと、まだ暗い。朝だから役員が起こしに来た・・・みたいなものとは、違うようだ。
テントの中の誰かが、トイレに行って帰ってきたのだろうか?
テントの中を見渡すと隣に沙羅がすやすやと寝息を立てている。
結城も、みちるも、倭も、ちゃんとテントの中にいた。
「誰・・・?」
こんな真夜中に、ここを訪ねてきたあなたは?
・・・水彌はみっちぃの話していた怖い話を思い出した。
も、もしかして・・・Cさん!?
そう思った途端、水彌は息が詰まるかと思った。
そういえば、Cさんが来るのは12時だ。
水彌は時計を探した。12時でなければ、Cさんじゃないだろう。
しかし時計は手元に無い。
・・・と、みちるの枕元にある携帯が目に付き、みちるには悪いが携帯を手に取った。
しかし時計を見る必要が無くなった。
「あの・・・ポーカー、だけど・・・。」
布を挟んで向こうにいる誰かが、名乗ったのだ。
確かにポーカーの声だ。
「ああ、ポーカーか・・・。」
・・・まさかね、なんて水彌は思いながら、テントの布を捲くった。
テントを捲ると、外は案外明るかった。テントの中に、光の筋を落とす。
そしてポーカーが立っていた。逆光になっており顔を見難かったが、確かにポーカーだ。
これならみちるか倭を入り口側に寝かせれば良かった、と水彌は思った。
それにしても・・・ポーカーだったから安心して開けたものの、こんな真夜中に何の用なのだろうか?
「どうしましたか?」
若干寝ぼけた声で、水彌が問う。
水彌は、Cさんではないか?という恐怖感に叩き起こされたものの、まだ完全に覚醒できていない。
「あのさ・・・。」
そう言うと、ポーカーが両手を突き出した。
水彌は硬直した。

「この首を入れる袋をください。」



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