それは、蝉が絶えず鳴く8月。
急な坂をキャンプ場を目指して歩く子供達と役員達の姿があった。
彼らの遥か上には、じりじりと容赦なく日光を注ぐ太陽。
じっとしているだけでも、全身から汗が噴出してきそうな位暑い。
坂を上る足取りはもう、重々しいものになっていた。
元気な子供達も、暑い中坂を上るのは流石に勘弁・・・といったところだろうか。
キャンプを楽しみにしていた子供達が多く、出発のときははしゃいだものだ。
しかし坂を上るにつれ、子供達は次第にテンションが下がっていた。
今では顔を汗だくにして、だらだらと歩いている。
しかし子供たちよりも辛いのは、もっと歳を喰っている役員たちだろう。
道のサイドにある木が影を落とし、その下を通る時に子供達は顰めた顔を緩ませた。
そこで立ち止まる子もおり、役員はその子の手を引いて坂を上り続けるのだった。
今日は子供会のキャンプだ。
子供会では毎年恒例の行事で、対象は小六の子供たちだ。
近くのキャンプ場で、一泊二日を過すものである。
子供会は大体赤字だったので、あまり遠くへ行って泊まることはできないようだ・・・。
坂を登って着いたところには、木製の家・・・のようなものが建っていた。
その背景には木々が生い茂っており、今から大自然の中で泊まる・・・という雰囲気を出している。
「うわー!キャンプっぽい!」
一人の女子が目を輝かせて言った。
「バンガローなの?」
違う女子が、役員の一人に尋ねた。
「いや、テントで泊まるよ。テントはもうできてるけどね。」
「えー、なんだ〜。」
一人女子が、役員の回答に不満の声をあげた。
「でもテントの方がキャンプっぽいくない?」
「でもバンガローの方がいいな〜。」
「テントでも建てなくていいなら楽だしね。」
女子はキャンプには期待していたようで、キャンプの話に花を咲かせている。
「カレー上手くできるか?」
「不味かったら俺、食わねーからな。」
「飯盒焦がすなよ!!」
男子といえば、今晩作るカレーの話をしていた。
まぁ無理もない。こんな坂を上ってきたのだから、お腹だって空くだろう。
「それにしても、思ったよりキャンプっぽいじゃんー!」
木製の家を見て「キャンプっぽい」と叫んだ少女・・・水彌(ミナミ)は言った。
「キャンプだし、当たり前じゃん。」
水彌の後ろで、ぼそりと声が聴こえた。
その声に反応して、水彌は後ろを向くと、思ったとおり・・・
そこには水彌によくつっかかる男子、優斗(ユウト)がいた。
「ここら辺にこんなところがあるなんて知らなかったの!」
優斗の言葉に、いちいちムキになる水彌もどうかと思う。
「無知。」
きっぱりと優斗が言った。
「うるさい!じゃあ優斗は知ってたの?」
「うん。」
「・・・・・・・・・・・・。」
優斗の方が、一枚上手のようだ。
というか大抵この二人の口喧嘩は、水彌が言い返せず終わってしまうことが多い。
水彌が口喧嘩をふっかけても、結局は優斗が制してしまう。
それだけ水彌がバカというか・・・まぁそういうことだろう。
「おーい水彌ちゃん、優斗くん、もう行くよ〜。」
決着(?)がついたところで、役員が二人に呼びかけた。
決着がつくまで、二人に何を言ったってシカトされてしまうことは、役員達も知っていた。
「・・・さてと、行こ。」
優斗が背中を向けた。
「ち、ちょっとー!!」
水彌は優斗の背中を追った。
キャンプ場の空に、四方八方に木々が手を伸ばしている。
まずキャンプ場に行くと、カウンセラー達の紹介だった。
カウンセラーは三人で、その中で二人が女性だった。
長いと思われる黒髪を一つにしばっていて、一見大人しそうな「あんみつ」。
彼女があんみつが好きでいつも食べているから、このように命名されてしまったそうだ。
そしてダークブラウンの髪を肩まで伸ばし、両耳にピアスをしており、目がぱっちりしている「みっちぃ」。
昔からの愛称をそのまま使ったらしい。
そして唯一の男、なかなか高身長で、いわゆるハンサムである「ポーカー」。
表情をあまり顔に出さない・・・つまりポーカーフェイスだから、こう付けられてしまったとか。
カウンセラーの自己紹介を終わらせると、あんみつが飯盒の使い方や薪の場所などを説明した。
あんみつは大人しそうな印象を受ける外見をしておるが、結構しっかり者で明るい人であった。
あんみつの説明に、みっちぃが補足を入れている。
ポーカーは口をあまり開かず、二人の説明を静かに聴いていた。
そしてあんみつとみっちぃの説明が終わり、子供達はテントに荷物を置きに行った。
ここの子供会の六年は、男子8人女子5人だった。
ちなみに他の学校地域が同じ子供会も今日がキャンプなので、学校のクラスでキャンプに来る感覚だった。
女子のテントは一つに5人、男子のテントは二つのテントに4人、4人と分けられた。
水彌たちは、女子のテントへ荷物を置きに行った。
その間この五人は、カウンセラーのことについて話していた。
「あんみつもみっちぃも可愛いよね。」
一人の女子・・・沙羅(サラ)が言った。
「だよね!みっちぃはピアスしてたね。」
そしてまた一人・・・結城(ユウキ)が言った。
「ねぇねぇ、でもさぁ・・・。」
みちるが話題を転じた。
「やっぱポーカーよね!?」
みちるの続く言葉を代わりに倭(ヤマト)が言った。
「そうそう!カッコイイよねー!」
みちるが倭に飛びつく勢いで返した。
「ポーカーはカッコイイよねぇ、でもやっぱり・・・v」
「ああ、結城には榛(シン)君がいるもんね〜。」
と言いながら、沙羅がニヤニヤした。
榛というのは、彼女達の同級生の男子の名前だ。
結城が榛に好意を寄せていることは、この四人にはもう知られていた。
このキャンプで、結城と榛がどれ程接近するか、四人は楽しみにしていた。
「ねぇじゃあ水彌はどーよ?ポーカーカッコイイよねー!」
みちるが水彌に同意を求める。
「うーん、まぁ普通よりはいいと思うけど。」
水彌はそれほど興味を示さなかった。
「好みじゃないの?」
倭が首を傾げた。
「ううん!水彌には優斗がいるもんねっ!」
沙羅が先ほどよりタチの悪い笑みを浮かべた。
「あ、そっかぁー!」
沙羅の言葉に、他の水彌以外の女子達は安易に納得した。
「違うわ!!」
水彌が否定した。
「いや、照れなくてもいいからねー。」
「だってあんなに仲いいし・・・。」
「さっきもあんなに楽しそうに話してたじゃないの〜。」
「違う!違うー!!」
彼女達の冷やかしに水彌がふくれた。
「あ、もうテントだ〜。」
「荷物置いたらカレー作りだよー!」
そう言って四人は駆け足で水彌から離れた。
水彌をからかうのは楽しいが、怒らせた水彌は怖い。
「コラー!逃げるなー!!」
四人を追って、水彌も駆け出した。
それからテントから少し離れたところで、カレーを作り始めた。勿論野外で調理をする。
そこには可愛らしい木製の椅子と机があった。いかにもキャンプ、といった感じだ。
カレーは皆で作った。料理が下手な男子も、懸命に参加した。
結城は榛にいいところが見せたくて、他の女子より頑張っていた。
そんな結城を見て、他の女子がクスクスと笑っていた。
飯盒でご飯を炊くのは慣れていないので、カウンセラーに手伝ってもらいながら炊いた。
その甲斐あって、ご飯は上手に炊けた。
カレーもなんとか成功し、ご飯とカレーを紙皿に装い、皆で木製の椅子に座って食べた。
カウンセラーも一緒にカレーを食べた。
みちるがポーカーを隣に誘うと、ポーカーは隣に座った。
勿論みちるは喜んだ。そんなみちるを見て、倭が口を尖らせた。
他の子供会の子供も、一緒にカレーを作っていた。
「結構上手くできたねー。」
水彌がカレーを一口食べてから、ほっとしたように言った。
「何?水彌上手くできるか心配してたの?」
沙羅が苦笑した。
「だって、男子がご飯炊いたんでしょ?焦がすかなーと思ってさー!」
「はははは!焦がしそー!!」
水彌と沙羅はゲラゲラ笑った。
「焦がさなかったぞー!!」
男子の方から声があがった。皆が一斉に笑った。
結城は他の女子の協力を得て榛の正面の席になったので、榛と話していた。
「カレー美味しいね。」
「五年のときのキャンプだと、樹(イツキ)が飯盒でご飯焦がしたよね。」
五年のときのキャンプ・・・つまり小学校でのキャンプである。
「あれには困ったよね。結局カウンセラーさんのご飯貰ってさ。」
・・・なかなかいいムードだ。
「なんだよ〜、仕方ないだろ!」
榛の隣の隣の隣に座っていた樹が食って掛かった。
「あ、聴こえてたんだ・・・すまん。」
「榛!許さん!」
そんな二人を見て、結城が微笑した。
みちるはポーカーに話しかけており、それを倭が阻害した。
「私みちるって言います、よろしくv」
みちるがポーカーに笑む。
げし。
「倭でーすv」
倭がみちるをどけて、ポーカーに自己紹介をした。
「何すんのよ〜!話し中なのぉー。」
どけられたみちるが眉を顰めた。
「私だって自己紹介したいんだもーん!」
倭がニヤリと笑いながら言った。
「ああ・・・よろしくね、みちるちゃん、倭ちゃん。」
ポーカーが微笑して言った。ポーカーの一言で、二人の表情が一転した。
「よろしくぅーvvv」
「・・・た、単純だ・・・。」
沙羅が二人に聴こえないように言った。
「うん、単純だね・・・。」
水彌も同意した。
そして紙皿やら紙コップを処理し、飯盒を洗って、子供達は遊び始めた。
紙皿をポリ袋に抛っていた水彌の背中に、結城が言葉をかけた。
「ねぇ、ウノしない?」
結城はウノを持参してきていた。
他にも結城は、あんみつやみちるや倭やら・・・そして榛達を誘った。
「やっぱり結城、榛を誘ってるね。」
ニヤニヤしながら沙羅が言った。
そしてカレーを食べたときに使用したテーブルの上にカードを置いた。
「私、ウノのルール知らないナァ。」
水彌は実は、ウノをしたことが無かった。
「じゃあウノしながらルールを教えてあげる。」
結城が機嫌が良さそうに笑った。
そして水彌にルールを一通り教えて、ウノを始めた。
皆はゲラゲラ笑いながらウノをしていた。
しかし次第に暗くなり、カードやら顔やらが認識し辛くなってきた。
夏場なので日は長いのだが、楽しい時間というものは早く過ぎていくように錯覚するものだ。
・・・それにしても、日光の注がないキャンプ場は怖い。
自然の中なので外灯も少ないし、暗闇の中耳に響く木々のざわめきは物恐ろしい。
小学生である水彌達が、夏場に真っ暗になる時間帯に保護者なしで外をうろつくこともあまりない。
日の光が弱まって薄暗い空に、黒い枝が手を広げる。
「・・・怖いね。」
沙羅がつぶやいた。
「大丈夫よ〜。キャンプ場には変な人とか出ることはありえないしね。」
キャンプ場一帯、頑丈で高いフェンスが張ってあるから、キャンプ場の出入りは受付以外不可能なのよ。」
あんみつがへらりと笑った。
「流石キャンプ場だぁ。」
沙羅達がほっと胸をなでおろした。
「それぐらいしなきゃ、安心してキャンプできないものね。私襲われちゃうっ。」
あんみつが頬に指を一本押し付け、なんちゃって笑窪をつくった。
「あんみつを襲う人なんていないでしょ。」
ポーカーが穏やかに突っ込んだ。
「まー、失礼しちゃう!」
皆がゲラゲラ笑った。
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